感染拡大防止の観点と患者・家族へのケアを考慮した、
緩和ケア病棟での望ましい面会とケアのあり方の指針

日本ホスピス緩和ケア協会
2021年12月11日

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染対策による面会制限によって、緩和ケア病棟で行われるべき患者と家族(家族以外の介護者、患者が大切に思う人を含む)の抱える多様な問題と希望に応じたケアを行うことが困難となっています。 当協会が2021年11月に行った緩和ケア病棟管理者へのアンケート調査では、77%がCOVID-19の流行によって緩和ケアの質が低下したと回答し、その大きな理由として面会制限のために家族ケアが十分に行えないことを挙げています。 また、緩和ケア病棟を利用した遺族への調査では、「重症の患者では、面会制限をするべきでない」という回答が45%あり、患者の家族も面会制限の緩和を求めています。
 一方で、基本的な感染対策の徹底やワクチン接種の進展、PCR検査等の早期実施などにより、国内の状況は変化しつつあります。 2021年11月、政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を改訂し、感染対策と日常生活を両立させることを基本とした政策を展開することとしました。 この中で、政府は国内の医療機関に対し、感染拡大防止の観点と患者と家族のQOL(Quality of Life)を考慮し、地域における発生状況と患者や面会者の体調とワクチン接種歴・検査結果等を参考として、対面での面会を含めた対応を検討することを求めました。
 これを受けて、当協会では会員の緩和ケア病棟各施設に対し、感染拡大防止の観点と患者・家族へのケアを考慮した、緩和ケア病棟での望ましい面会とケアのあり方の指針を提案します。 この指針を参考とし、各施設の状況、地域の感染症の状況、個別の患者・家族の状況に応じた対応を検討してください。


1.国が推奨する最新の感染対策について病棟スタッフおよび患者・家族に周知するとともに、緩和ケア病棟で提供するべき基本的なケアのあり方について当協会の「緩和ケア病棟の基準 2021年版」などを参考とし病棟内および院内で共有すること.

  • 内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策」のWebサイトに新型コロナウイルス感染症への最新の対策や資料が掲載されていますので活用しましょう.
  • 当協会のWebサイトに「緩和ケア病棟の基準 2021年版」「新型コロナウイルス感染症流行期におけるホスピス・緩和ケア病棟での面会に関する基本的考え方」「コロナ禍における緩和ケア病棟での面会に関する新たな提案」などの資料を掲載しています. 感染状況下でも継続するべきケアのあり方について、病院の管理者や感染対策部門の担当者にも理解を求めましょう.

2.患者と家族の持つ多面的な問題と希望を評価し、必要に応じたケアを提供するために、患者と家族が直接対面で交流できる機会、家族と多職種のスタッフとの直接の面談の機会をできるだけ設けること.

  • 解決困難な課題にともに立ち向かう上で、人と人が直接会うことには大きな意味と価値があります。IT機器の活用によるオンラインでの面会や面談も活用しつつ、直接対面で交流する機会を必要に応じてできるだけ確保しましょう。

3.地域と国内の感染の状況、および、それぞれの患者がおかれた状況を考慮し、一律な感染対策を継続するのではなく、感染リスクと患者・家族のニーズの変化に応じた面会の方法と患者家族の交流のあり方の見直しを行うこと。

  • 自施設の地域で緊急事態宣言が発出されている、あるいは国のレベル分類の「レベル3(対策を強化すべきレベル)」「レベル4(避けたいレベル)」に相当する状態にある場合、 当協会の「新型コロナウイルス感染症流行期におけるホスピス・緩和ケア病棟での面会に関する基本的考え方(2020年5月2日改訂)」および厚生労働省「医療施設等における感染拡大防止に留意した面会の事例について」で紹介された各病院の具体的な取り組みなどを参考として、 自施設での面会の方法を検討しましょう。
  • 自施設の地域の感染状況が安定し、国のレベル分類の「レベル0(感染者ゼロレベル)」「レベル1(維持すべきレベル)」にある場合、個人の基本的な感染防止対策(体調管理、密の回避、マスク着用、手指消毒など)を患者と家族に説明して協力を求め、 対策が遵守できる場合にはできるだけ要望に応じた面会が行えるように対処しましょう。

4.面会制限・面会方法の見直しについては、病棟スタッフと病院管理者・感染部門担当者等の話し合いによって行い、明確な基準として周知すること.また、実際の運用において例外的な対応が必要になることも想定しておくこと.

  • 入棟する患者・家族には面会制限の基準を事前に伝え、理解・協力を求めましょう。
  • 面会制限の基準や面会のルールを適応することが適切でないと考えられる場合、例外的対応について多職種で検討する場を準備し、関係する人々が納得できるような対応となるよう努力しましょう.

5.自施設が果たすべき役割を踏まえつつ、緩和ケア病棟の運営について病院管理者や感染対策部門の責任者と話し合いを行い、地域で必要な緩和ケアを提供することについて理解を求めること.

  • ボランティア活動、季節のイベント、遺族ケアのためのイベントなど、自施設の緩和ケア病棟で欠くことができないと考えられる活動については、基本的な感染対策を徹底しながら継続できるよう、院内で話し合いを行いましょう.
  • 新型コロナ感染症患者受入れのために一部の病棟をコロナ対応病床に転用することが求められた場合に、全室個室であることのみを理由として、安易に緩和ケア病棟がコロナ病床に転用されてしまう場合があります。地域での緩和ケアへのニーズを考慮し、できるだけ地域で求められている緩和ケアが提供できる体制を維持しましょう.

参考資料


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